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代表者メッセージ

中 寛史
京都大学大学院薬学研究科 准教授

博士(理学)。東北大学大学院薬学研究科 助手、名古屋大学物質科学国際研究センター 助教を経て、2020年10月より現職。専門は有機化学・触媒化学。科研費助成事業 学術変革領域研究(B)「重水素学:重水素が示す特性の理解と活用」領域代表。

Dで世界を変えよう

みなさま、「重水素学」にようこそ。本領域の代表を務めます、中寛史と申します。2020年10月から学術変革領域研究(B)「重水素学」を、国の支援を受けて始めることができました。

軽水素(H, 1H, hydrogen)の安定同位体である重水素(D, 2H, deuterium)は、1931 年に Harold Clayton Urey が発見して以来、様々な分野で利用されてきました。特に近年は、分子を構成する軽水素を重水素に置換した重水素化物質の機能が注目され、その設計と活用が国際的に活発化しています。2017 年には、重水素化された医薬分子がはじめて米国 FDA から新薬として承認されました。こうした状況を踏まえ、この領域研究では重水素を含む分子を新しい視点で見直し、理解し、新しい価値の創出につなげる新分野「重水素学」を拓きます。

これまでの科学では、自然界の物質を「元素」や「分子構造」、「立体構造」などの要素によって捉え、それらを人工的に変化させることで物質の性質をコントロールする技術を発展させてきました。本領域の特色は、この要素に「同位体」を加え、軽水素を重水素で置換した多様な物質群を対象とすることです。重水素化物質を深く理解し、物質に重水素を合理的に導入することが可能になれば、物質の機能を最大限に引き出すことができるはずです。この科学と技術を確立することが、物質科学の水準を格段に向上させ、社会を一歩前に進める鍵となります。重水素化によって薬物代謝の速度を調節することで優れた医療を可能にする重水素化医薬品は、その好例と言えるでしょう。

私たちはこの領域で上記の目的を達成するために、重水素化物質について(1)つくる(合成法開発)、(2)わかる(理論構築)、(3)はかる(機能開拓)、(4)つかう(代謝研究への利用)の4分野を連動して研究を推進することにしました。そのために必要な、中心メンバーとして異分野の研究者を集め、領域研究をスタートさせました。

私たちの最終的なゴールは、「重水素(D)で世界を変える」ことにあります。私たちは、前世紀に医薬業界でおきた大変革「キラルスイッチ(Chiral Switch)」になぞらえて、これを「デュースイッチ(Deut-Switch)」と名付けました。多くの方に本領域を知っていただき、協働の輪を広げていくことがゴールへの原動力です。一緒に「重水素学」の時代を拓いていきましょう!