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活動と業績

ニュースレター Vol. 1

つくるわかるはかるつかうニュースレター

はじめに

Deut-Switchニュースレターの第一号をお届けします。振り返ると、2020年10月1日に本研究領域が学術変革領域研究(B)に採択されてから、研究体制の構築を急ピッチで進め、ようやく第1回シンポジウムを開催するに至りました。領域代表の中 寛史先生をはじめ、計画研究班の代表の先生方のご尽力には頭が下がります。文科省のHPには、領域の目的として、「より挑戦的かつ萌芽的な研究に取り組むことで、これまでの学術の体系や方向を大きく変革・転換させることを先導するとともに、我が国の学術水準の向上・強化につながる研究領域の創成を目指す。」とあります。本研究班から、将来の重水素学が大きく飛躍(すなわち、デュースイッチ Deut-Switch)することを祈念して、Deut-Switchニュースレター第一号の「はじめに」としたいと思います。(前川 京子)

1、領域代表者挨拶

D で世界を変えよう

みなさま,「重水素学」にようこそ。本領域の代表を務めます、中寛史と申します.この10月から学術変革領域研究(B)「重水素学」を、国の支援を受けて始めることができました。重水素(D, 2H, deuterium)は軽水素(H, 1H, hydrogen)の放射性のない安定同位体です。自然界に存在する重水素のほとんどは,137億年前にビックバンで誕生したものと言われており、地球上では主に重水(HOD)の形で存在しています。1931 年に Harold Clayton Urey が発見して以来、主に軽水素の等価体として様々な分野で利用されてきました。例えば、有機物質の C–H 結合を C–D 結合に置換した物質(重水素化物質)は同位体標識体(トレーサー)として生命科学における代謝分析に用いられています。

その一方で、重水素化物質はもとの軽水素置換体と大きく異なる物性を示す事象が知られており、重水素化物質の設計と活用が国際的にも活発化しています。例えば 2017 年には、重水素化された医薬分子がはじめて米国 FDA から新薬として承認されています。こうした状況を踏まえ、この領域研究では重水素を含む分子を新しい視点で見直し、理解し、新しい価値の創出につなげる新分野「重水素学」を拓きます。(図1)

図1

自然界における物質の性質は、「元素」や「分子構造」、「立体構造」などの要素によって説明することができます。またこれらの要素を人工的に変化させることで物質の性質をコントロールする技術も発展してきました。ここに「同位体」を要素として取り入れ、軽水素を重水素で置換した多様な物質群を対象とするのが、本領域の特色です。単純なメタンですら CH4とCH3D, CH2D2, CHD3, CD4 の 5 種類の分子が存在します。重水素化物質の性質を深く理解し、物質に重水素を合理的に導入することができれば、物質の機能を最大限に引き出すことができるはずです。この科学と技術の確立は、物質科学の水準を格段に向上させ、社会を一歩前に進める鍵となります。重水素化によって薬物代謝の速度を調節することで優れた医療を可能にする重水素化医薬品はその好例と言えるでしょう。

私たちはこの領域で上記の目的を達成するために、重水素化物質について(1)つくる(合成法開発)、(2)わかる(理論構築)、(3)はかる(機能開拓)、(4)つかう(代謝研究への利用) の4分野を連動して研究を推進することにしました。そのために必要な、中心メンバーとして異分野の研究者を集め、領域研究をスタートさせました(図2)。

図2

私たちの最終的なゴールは、「重水素(D)で世界を変える」ことにあります。私たちは,前世紀に医薬業界でおきた大変革「キラルスイッチ(Chiral Switch)」になぞらえて、これを「デュースイッチ(Deut-Switch)」と名付けました。みなさまが自身の研究を一つ一つ積み重ね、領域で活発に協働していただくことが、このゴールへの原動力です。一緒に「重水素学」の時代を開いていきましょう!

2、第1回 Deut-Switchシンポジウム開催報告

2020年12月7日(月)15:30~18:00に、オンラインにて、第1回 Deut-Switchシンポジウムを開催いたしました(図3)。研究代表者、分担研究者、研究協力者に加え、それぞれの大学から、院生や学生が参加し、参加者は総勢29名で盛大なシンポジウムとなりました。まず、研究総括:中 寛史先生(京都大学)より『重水素が示す特性の理解と活用』と題して、本領域研究の趣旨説明がありました(図4)。

図3
図4

続いて、A01班(つくる)の計画班代表の澤間 善成先生(岐阜薬科大学)より『重水素原子置換生体関連物質の網羅的合成と機能性評価』と題して、これまでの先生の有機化学のバックグラウンドのご紹介から始まり、今後の主な重水素標識ターゲット分子についてご説明がありました(図5)。A02班(わかる)の計画班代表の石元 孝佳先生(広島大学)からは、『重水素科学のための新理論の構築と新概念の創出』と題して、既存の計算方法では、欠点を補う新規量子論の高精度化と大規模化に取り組むことが紹介されました(図6)。

図5
図6

ここで一度、休憩をはさみ全体写真を撮った後、A03班(はかる)の計画班代表の中 寛史先生から、『重水素化による医薬分子と分子触媒の機能開拓』と題して、これまでの研究内容をご紹介いただいた後、Dで分子の機能を引き出すための分子触媒に関する提案がなされました(図7)。最後に04班(つかう)の計画班代表の前川 京子先生より、『重⽔素化医薬品設計のための薬物代謝酵素が関与するKIEの予測法・評価法の開発』と題して、薬物代謝酵素P450でKIEを測定するための酵素反応速度論と解析手法の概説がありました(図8)。中身の濃い二時間半であり、閉会した後もスモールグループでのディスカッションが続いていました。また、本シンポジウムの一週間後には、分担研究者、協力研究者らによるDeut-Switchセミナーが開催されることが決まりました。今後の本領域の発展と若い研究者の活躍に期待をしたいと思います(図9)。

図7
図8
図9

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